五、六百人以上の助郷村民は木曾四か宿に徴集されて来て朝勤め夕勤めの役に服したが、その都度《つど》割りのよい仕事にありつき、なおそのほかに宿方の補助を得ていたのも彼らである。街道で身代を築き上げた旦那衆と同じように、彼らもまた宿場全盛のころのはなやかな昔を忘れかねている。宿駅と助郷村々との課役を平等にせよというような駅逓司の方針は彼らにとってこの特権から離れることにも等しかった。
 旧御伝馬役の一人に小笹屋《こざさや》の勝七がある。この人なぞは伊之助の意見を聞こうとして、ある夜ひそかに伏見屋の門口をたたいたくらいだ。
「まあ、本陣へ行って聞いてくれ。」
 それが伊之助の答えだった。
「オッと、伏見屋の旦那、それはいけません。宿の御伝馬役と在の助郷とはわけが違いますぞ。桝田屋の旦那でも、蓬莱屋《ほうらいや》の旦那でも、皆おれたちの肩を持ってくださる。お前さまのような人は、もっと宿内のものをかわいがってくだすってもいい。」
 そう勝七が言い立てても、伊之助は隣の国から来た養子の身ということを楯《たて》にして、はっきりした返事をしなかった。同じ旦那衆の一人でも、伊之助だけは中庸の道を踏もうとし
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