ている。この「本陣へ行って聞いてくれ」が、いつでも彼の奥の手だ。
十二月の下旬には、この宿場ではすでに幾度か雪を見た。時ならない尾州藩の一隊が七、八十人の同勢で、西から馬籠昼食の予定で街道を進んで来た。木曾福島行きの御連中である。ちょうど余日もすくない年の暮れにあたり、宿内にあり合わせた人馬もあちこちと出払った時で、特に荷物の継立《つぎた》てを頼むと言われても手が足りなかった。にわかなことで、助郷も間に合わない。宿駅改革の主旨にもとづく課役の平等は旦那衆の家へも回って行く。ともかくも交通機関の整理が完成されるまで、街道に居住するものはもとより、沿道付近の村民は皆各人が助郷たるの意気込みをもって、一軒につき一人ずつは出てこの非常時に当たれとある。こうなると、町人と言わず、百姓と言わず、宿内で人足を割り当てられたものは継立て方を助けねばならなかった。
ある旦那衆などは、もうたまらなくってどなった。
「何。われわれの家からそんな人足なぞに出られるか。本陣へ行って聞いて来い。」
父吉左衛門もめっきり健康を回復して来たので、それに力を得て、人足のさしずをするために本陣を出ようとしていた
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