け。」と得右衛門が言う。
「待ってくださいよ。」と伊之助は思い出したように、「実は、あとでわたしも考えて見ました。これには何か子細があります。凱旋の酒の上ぐらいで、まさかそんな乱暴は働きますまい。福島辺は今、よほどごたごたしていて、官軍の迎え方が下《しも》四か宿とは違うんじゃありますまいか。その話をわたしは吾家《うち》の隠居にしましたところ、隠居はしばらく黙っていました。そのうちに、あの隠居が何を言い出すかと思いましたら、しかし街道の世話をする宿役人を手打ちにするなんて、はなはだもってわがままなしかただ、いくら官軍の天下になったからって、そんなわがままは許せない、ですとさ。」
「いや、その説にはわたしも賛成だ。」と寿平次は言った。「君のところの老人は金をもうけることにも抜け目がないが、あれでなかなか奇骨がある。」


 奥州から越後の新発田《しばた》、村松、長岡《ながおか》、小千谷《おぢや》を経、さらに飯山《いいやま》、善光寺、松本を経て、五か月近い従軍からそこへ帰って来た人がある。とがった三角がたの軍帽をかぶり、背嚢《はいのう》を襷掛《たすきが》けに負い、筒袖《つつそで》を身につけ、
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