おじ》(吉左衛門のこと)の病気を案じ顔な栄吉を見いだす。栄吉は羽目板《はめいた》の上の位置から、台の前の蹴込《けこ》みのところに立つ伊之助の顔をながめながら、長年中風を煩《わずら》っているあの叔父がここまで持ちこたえたことさえ不思議であると語っていた。
 その足で、伊之助は本陣の母屋《もや》までちょっと見舞いを言い入れに行った。半蔵夫婦をはじめ、お粂《くめ》や宗太まで、いずれも裏二階の方と見えて、広い囲炉裏ばたもひっそりとしている。そこにはまた、あかあかと燃え上がる松薪《まつまき》の火を前にして、母屋を預かり顔に腕組みしている清助を見いだす。
 清助は言った。
「伊之助さま、ここの旦那《だんな》はもう三晩も四晩も眠りません。おれには神霊《みたま》さまがついてる、神霊さまがこのおれを護《まも》っていてくださるから心配するな、ナニ、三晩や四晩ぐらい起きていたっておれはちっともねむくない――そういうことを言われるんですよ。大旦那の病気もですが、あれじゃ看護するものがたまりません。わたしは半蔵さまの方を心配してるところです。」
 それを聞くと、伊之助は病人を疲れさせることを恐れて、裏の隠居所ま
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