皆が京都の政府を信じてくれたら、こんな一揆も起こるまいとおれは思うんだ。お前たちからも仲間のものによく話してくれ。」
「そのことはおれたちもよく話すわいなし。」と桑作が答える。
「だれだって、お前、饑《う》え死《じ》にはしたくない。」とまた半蔵が言い出した。「そんなら、そのように、いくらも訴える道はある。今度の政府はそれを聞こうと言ってるんじゃないか。尾州藩でも決して黙ってみちゃいない。ごらんな、馬籠の村のものが一同で嘆願して、去年なぞも上納の御年貢《おねんぐ》を半分にしてもらった。あんな凶年もめったにあるまいが、藩でも心配してくれて、御年貢をまけた上に、米で六十石を三回に分けてさげてよこした。あの時だって、お前、一度分の金が十七両に、米が十俵――それだけは村中の困ってるものに行き渡ったじゃないか。」
「それがです。」と兼吉は半蔵の言葉をさえぎった。「笹屋《ささや》の庄助さのように自分で作ってる農なら、まだいい。どんな時でもゆとりがあるで。水呑百姓《みずのみびゃくしょう》なんつものは、お前さま、そんなゆとりがあらすか。そりゃ、これからの世の中は商人《あきんど》はよからず。ほんとに百姓は
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