もある。正月と言えば餅《もち》をつきに来たり、松を立てたりするのも、あの仲間です。一つあの仲間を呼んで、様子を聞いて見ます。」
「まあ、京都の方の話もいろいろ伺いたいけれど。夜も短かし。」
五
「お霜婆《しもばあ》」
「あい。」
「お前のとこの兼さに本陣の旦那《だんな》が用があるげなで。」
「あい。」
「そう言ってお前も言伝《ことづ》けておくれや。ついでに、桑さにも一緒に来るようにッて。頼むぞい。」
「あい。あい。」
馬籠本陣の勝手口ではこんな言葉がかわされた。耳の遠いお霜婆さんは、下女から言われたことを引き受けて、もう何十年となく出入りする勝手口のところを出て行った。
越後路の方へ行った七人の農兵も宰領付き添いで帰って来た朝だ。六十日の歩役を勤めた後、今度御用済みということで、残らず帰村を許された若者らは半蔵のところへも挨拶《あいさつ》に来た。ちょうどそこへ、兼吉、桑作の二人《ふたり》も顔を見せたので、入り口の土間は一時ごたごたした。
半蔵も西から帰ったばかりだ。しかし彼は旅の疲れを休めているいとまもなかった。日ごろ出入りの二人の百姓を呼んで村方の様子を聞くま
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