札は不渡りでないまでも半額にしか通用しないし、今までどおりの雇い銭の極《き》めじゃ人足は出て来ないし……でも、捨て置くべき場合じゃないと思いましたから、宿内のことは九郎兵衛(問屋)さんなぞによく頼んで置いて、早速《さっそく》福島のお役所へ飛脚を走らせる、それから半分夢中で落合までかけて行きました。その翌日の晩は、中津川に集まった年寄役仲間で寄り合いをつけて、騒動のしずまったところを見届けて置いて、家へ帰って来た時分にはもう夜が明けました。」
思わず半蔵は旅の疲れも忘れて、その店座敷に時を送った。格子先の簾《すだれ》をつたうかすかな風も次第に冷え冷えとして来る。
「どうも、なんとも申し訳がない。」と言って、半蔵は留守中の礼を述べながらたち上がった。「こんな一揆の起こるまで、あの庄助さんも気がつかずにいたものでしょうか。」
「そりゃ、半蔵さん、笹屋《ささや》だって知りますまい。あれで笹屋は自分で作る方の農ですから。」
「わたしは兼吉や桑作でも呼んで聞いて見ます。わたしの家には先祖の代から出入りする百姓が十三人もある。吾家《うち》へ嫁に来た人について美濃から移住したような、そんな関係のもの
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