。
「そう言えば、半蔵、こないだ金兵衛さんが見舞いに来てくれた時に、おれはあの老友と二人で新政府のお勝手向きのことを話し合ったよ。これだけの兵隊を動かすだけでも、莫大《ばくだい》な費用だろう。金兵衛さんは、お前、あのとおり町人|気質《かたぎ》の人だから、いったい今度の戦費はどこから出るなんて、言い出した。そりゃ各藩から出るにきまってます、そうおれが答えたら、あの金兵衛さんは声を低くして、各藩からは無論だが、そのほかに京大坂の町人たちが御用達《ごようだて》のことを聞いたかと言うのさ。百何十万両の調達を引き受けた大きな町家もあるという話だぜ。そんな大金の調達を申し付けるかわりには、新政府でそれ相応な待遇を与えなけりゃなるまい。こりゃおれたちの時代に藩から苗字《みょうじ》帯刀を許したぐらいのことじゃ済むまいぞ。王政御一新はありがたいが、飛んだところに禍《わざわ》いの根が残らねばいいが。金兵衛さんが帰って行ったあとで、おれはひとりでそのうわささ。」
そんな話も出た。
「金兵衛さんで思い出した。」と吉左衛門は枕もとの煙草盆《たばこぼん》を引きよせて、一服やりながら、「おれなぞはもう日暮れ道遠し
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