なぞを三宝《さんぽう》に載せ、孫娘のお粂には瓶子《へいじ》を運ばせて、挨拶《あいさつ》かたがた奥座敷の方へ行った。
「皆さんがお骨折りで、御苦労さまでした。」
 と言いながら、おまんは美濃衆の前へ挨拶に行き、中津川の有志者の一人《ひとり》として知られた小野三郎兵衛の前へも行った。その隣に並んで、景蔵が席の末に着いている。その人の前にも彼女は土器《かわらけ》を白木の三宝のまま置いて、それから冷酒を勧めた。
「あなたも一つお受けください。」
「お母《っか》さん、これは恐れ入りましたねえ。」
 景蔵はこころよくその冷酒を飲みほした。そこへ半蔵も進み寄って、
「でも、景蔵さん、福島での御通行があんなにすらすら行くとは思いませんでしたよ。」
「とにかく、けが人も出さずにね。」
「あの相良惣三《さがらそうぞう》の事件で、われわれを呼びつけた時なぞは、えらい権幕《けんまく》でしたなあ。」
「これも大勢《たいせい》でしょう。福島の本陣へは山村家の人が来ましてね、恭順を誓うという意味の請書《うけしょ》を差し出しました。」
「吾家《うち》の阿爺《おやじ》なぞも非常に心配していましたよ。この話を聞いたら、さ
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