たちなぞのおもちゃにするものじゃない。」
 としかった。
 獄門の場処は、町はずれの石屋の坂の下と定められた。そこは木曾十一宿の西の入り口とも言うべきところに当たる。本陣の竹藪からは一本の青竹が切り出され、その鋭くとがった先に侍の首級が懸《か》けられた。そのそばには規律の正しさ、厳《おごそ》かさを示すために、東山道軍として制札も立てられた。そこには見物するものが集まって来て、うわさはとりどりだ。これは尾州藩から掛け合いになったために、因州軍でも捨てて置かれなかったのだと言うものがある。当月二十六日の夜に、宿内の大野屋勘兵衛方に止宿して、酒宴の上であばれて行ったのも、おおかたこの侍であろうと言って見るものもある。やがて因州の家中も引き揚げて行き、街道の空には夜鷹《よたか》も飛び出すころになると、石屋の坂のあたりは人通りも絶えた。
「どうも、番太のむすめに戯れたぐらいで、打ち首とは、おれもたまげたよ。」
「山の中へでも無理に女を連れ込んだものかなあ。」
「このことは尾州藩からやかましく言い出したげな。領地内に起こった出来事だで。それに、名古屋の御重職も一人、総督のお供をしているで。なにしろ
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