、七藩からの寄り合いだもの。このくらいのことをやらなけりゃ、軍規が保てんと見えるわい。」
だれが問い、だれが答えるともなく、半蔵の周囲にはそんな声も起こる。
こうした光景を早く村民から隠したいと考えるのも半蔵である。彼は周囲を見回した。村には万福寺もある。そこの境内には無縁の者を葬るべき墓地もある。早くもとの首桶に納めたい、寺の住持|松雲和尚《しょううんおしょう》に立ち会ってもらってあの侍の首級を埋《うず》めてしまいたい、その考えから彼は獄門三日目の晩の来るのを待ちかねた。彼はまた、こうした極刑が新政府の意気込みをあらわすということに役立つよりも、むしろ目に見えない恐怖をまき散らすのを恐れた。庄屋としての彼は街道に伝わって来る種々《さまざま》な流言からも村民を護《まも》らねばならなかった。
三
三月にはいって、めずらしい春の大雪は街道を埋《うず》めた。それがすっかり溶けて行ったころ、かねて上京中であった同門の人、伊那《いな》南条村の館松縫助《たてまつぬいすけ》が美濃路《みのじ》を経て西の旅から帰って来た。
縫助は、先師|篤胤《あつたね》の稿本全部を江戸から伊那
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