し》をもたらして来た。地方にあるものは安堵《あんど》して各自に世渡りせよ、年来|苛政《かせい》に苦しめられて来たもの、その他子細あるものなぞは、遠慮なくその旨《むね》を本陣に届けいでよと言われても、だれ一人《ひとり》百姓の中から進んで来て下層に働く仲間のために強い訴えをするものがあるでもない。鰥寡《かんか》、孤独、貧困の者は広く賑恤《しんじゅつ》するぞ、八十歳以上の高齢者へはそれぞれ褒美《ほうび》をつかわすぞと言われても、あの先年の「ええじゃないか」の騒動のおりに笛太鼓の鳴り物入りで老幼男女の差別なくこの街道を踊り回ったほどの熱狂が見られるでもない。宿内のものはもちろん、近在から集まって来てこの街道に群れをなした村民は、結局、祭礼を見物する人たちでしかない。庄屋|風情《ふぜい》ながらに新政府を護《も》り立てようと思う心にかけては同門の人たちにも劣るまいとする半蔵は、こうした村民の無関心につき当たった。

       二

 御通行後の混雑も、一つ片づき、二つ片づきして、馬籠宿としての会所の残務もどうにか片づいたころには、やがて一切のがやがやした声を取り沈めるような、夕方から来る雨にな
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