げて来たのでもわかる。その勢いで木曾の奥筋へと通り過ぎて行ったのだ。轍《わだち》の跡を馬籠峠の上にも印《しる》して。
一行には、半蔵が親しい友人の景蔵、香蔵、それから十四、五人の平田門人が軍の嚮導《きょうどう》として随行して来た。あの同門の人たちの輝かしい顔つきこそ、半蔵が村の百姓らにもよく見てもらいたかったものだ。今度総督を迎える前に、彼はそう思った。もし岩倉公子の一行をこの辺鄙《へんぴ》な山の中にも迎えることができたなら、おそらく村の百姓らは山家の酒を瓢箪《ふくべ》にでも入れ、手造りにした物を皿《さら》にでも盛って、一行の労苦をねぎらいたいと思うほどのよろこびにあふれることだろうかと。彼はまた、そう思った。長いこと百姓らが待ちに待ったのも、今日《きょう》という今日ではなかったか。昨日《きのう》、一昨日《おととい》のことを思いめぐらすと、実に言葉にも尽くされないほどの辛労と艱難《かんなん》とを忍び、共に共に武家の奉公を耐《こら》え続けたということも、この日の来るのを待ち受けるためではなかったかと。さて、総督一行が来た。諸国の情実を問い、万民塗炭の苦しみを救わせられたいとの叡旨《えい
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