というふうで、赤地の錦の装束に太刀《たち》を帯び、馬にまたがって行ったが、これは初陣《ういじん》というところを通り越して、いじらしいくらいであった。この総督御本陣直属の人数は二百六人、それに用物人足五十四人、家来向き諸荷物人足五十二人、赤陣羽織《あかじんばおり》を着た十六人のものが赤地に菊の御紋のついた錦の御旗と、同じ白旗とをささげて来た。空色に笹龍胆《ささりんどう》の紋じるしをあらわした総督家の旗もそのあとに続いた。そればかりではない、井桁《いげた》の紋じるしを黒くあらわしたは彦根《ひこね》勢、白と黒とを半分ずつ染め分けにしたは青山勢、その他、あの同勢が押し立てて来た馬印から、「八幡大菩薩《はちまんだいぼさつ》」と大書した吹き流しまで――数えて来ると、それらの旗や吹き流しのはたはたと風に鳴る音が馬のいななきにまじって、どれほど軍容をさかんにしたかしれない。東山道軍の一行が活気に満ちていたことは、あの重い大砲を車に載せ、兵士の乗った馬に前を引かせ、二人《ふたり》ずつの押し手にそのあとを押させ、美濃と信濃《しなの》の国境《くにざかい》にあたる十曲峠《じっきょくとうげ》の険しい坂道を引き上
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