ていたっけ。」
もらわれて行った孫のうわさに、吉左衛門もおまんも聞きほれていた。やがて、吉左衛門は思いついたように、
「時に、半蔵、御通行はあと十二、三日ぐらいしかあるまい。人足は足りるかい。」
「今度は旧天領のものが奮って助郷《すけごう》を勤めることになりました。これは天領にかぎらないからと言って、総督の執事は、村々の小前《こまえ》のものにまで人足の勤め方を奨励しています。おそらく、今度の御通行を一期《いちご》にして、助郷のことも以前とは変わりましょう。」
「あなたは、それだからいけない。」とおまんは吉左衛門の方を見て、その話をさえぎった。「人足のことなぞは半蔵に任せてお置きなさるがいい。おれはもう隠居だなんて言いながら、そうあなたのように気をもむからいけない。」
「どうも、この節はおまんのやつにしかられてばかりいる。」
そう言って吉左衛門は笑った。
長話は老い衰えた父を疲らせる。その心から、半蔵は妻子や清助を誘って、間もなく裏二階を降りた。母屋《もや》の方へ引き返して行って見ると、上がり端《はな》に畳《たた》んだ提灯《ちょうちん》なぞを置き、風呂《ふろ》をもらいながら彼を見に
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