て取り調べる――それがお役所の方針らしいから。」
 そう言いながら、半蔵は寝覚《ねざめ》を立って行く友人と手を分かった。
「どれ、福島の方へ行ってしかられて来るか。」
 景蔵はその言葉を残した。その時、半蔵は供の男をかえりみて、
「さあ、平兵衛さん、わたしたちもぽつぽつ出かけようぜ。」
 そんなふうに、また半蔵らは馬籠をさして出かけた。
 木曾谷は福島から須原《すはら》までを中三宿《なかさんしゅく》とする。その日は野尻《のじり》泊まりで、半蔵らは翌朝から下四宿《しもししゅく》にかかった。そこここの道の狭いところには、雪をかきのけ、木を伐《き》って並べ、藤《ふじ》づるでからめ、それで道幅を補ったところがあり、すでに橋の修繕まで終わったところもある。深い森林の方から伐り出した松明《たいまつ》を路傍に山と積んだようなところもある。上松《あげまつ》御陣屋の監督はもとより、近く尾州の御材木方も出張して来ると聞く。すべて東山道軍を迎える日の近づきつつあったことを語らないものはない。
 時には、伊勢参宮の講中にまじる旅の婦人の風俗が、あだかも前後して行き過ぎる影のように、半蔵らの目に映る。きのうまで
前へ 次へ
全419ページ中154ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング