十一軒も民家を焼いたのは、まずかった。」
「なにしろ、止めて止められるような人たちじゃありませんからね。風は蕭々《しょうしょう》として易水《えきすい》寒し、ですか。あの仲間はあの仲間で、行くところまで行かなけりゃ承知はできないんでしょう。さかんではあるが、鋭過《するどす》ぎますさ。」
「景蔵さん、君は何か考えることがあるんですか。」
「どうして。」
「どうしてということもありませんが、なんだかきょうはしかられてるような気がする。」
 この半蔵の言葉に、景蔵も笑い出した。
「そう言えば半蔵さん、こないだもわたしは香蔵さんをつかまえて、どうもわれわれは目の前の事にばかり屈託して困る、これがわれわれの欠点だッて話しましたら、あの香蔵さんの言い草がいい。屈託するところが人間ですとさ。でも、周囲を見ると心細い。王政復古は来ているのに、今さら、勤王や佐幕でもないじゃありませんか。見たまえ、そよそよとした風はもう先の方から吹いて来ている。この一大変革の時に際会して、大局を見て進まないのはうそですね。」


「景蔵さん、君も気をつけて行って来たまえ。相良惣三に同情があると見た地方の有志は、全部呼び出し
前へ 次へ
全419ページ中153ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング