「景蔵さん、東山道軍の執事から尾州藩の重職にあてた回状の写しさ、あれは君の方へも回って行きましたろう。」
「来ました。」
「あれを君はどう読みましたかい。」
「さあ、ねえ。」
「えらいことが書いてあったじゃありませんか。あれで見ると、本営の方じゃ、まるきり相良惣三の仲間を先駆とは認めないようですね。」
「全くの無頼の徒扱いさ。」
「いったい、あんな通知を出すくらいなら、最初から先駆なぞを許さなければよかった。」
「そこですよ。あの相良惣三の仲間は、許されて出て来たものでもないらしい。わたしはあの回状を読んで、初めてそのことを知りました。綾小路《あやのこうじ》らの公達《きんだち》を奉じて出かけたものもあるが、勅命によってお差し向けになったものではないとまで断わってある。見たまえ、相良惣三の同志というものは、もともと西郷吉之助の募りに応じて集まったという勤王の人たちですから、薩摩藩《さつまはん》に付属して進退するようにッて、総督府からもその注意があり、東山道軍の本営からもその注意はしたらしい。ところがです、先駆ととなえる連中が自由な行動を執って、ずんずん東下するもんですから、本営の方じゃ
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