いう事です。」
 景蔵はまずそれを言った。
 その時、二人は顔を見合わせて、互いに木曾福島の役人衆が意図を読んだ。
「見たまえ。」とまた景蔵が言い出した。「東山道軍の執事からあの通知が行くまでは、だれだって偽《にせ》官軍だなんて言うものはなかった。福島の関所だって黙って通したじゃありませんか。奉行から用人まで迎えに出て置いて、今になってわれわれをとがめるとは何の事でしょう。」
「ですから、驚きますよ。」と半蔵はそれを承《う》けて、「これにはかなり複雑な心持ちが働いていましょう。」
「わたしもそれは思う。なにしろ、あの相良惣三の仲間は江戸の方でかなりあばれていますからね。あいつが諏訪《すわ》にも、小諸《こもろ》にも、木曾福島にも響いて来てると思うんです。そこへ東山道軍の執事からあの通知でしょう、こりゃ江戸の敵《かたき》を、飛んだところで打つようなことが起こって来た。」
「世の中はまだ暗い。」
 半蔵はそれを友人に言って見せて、嘆息した。その意味から言っても、彼は早く東山道軍をこの街道に迎えたかった。


「まあ、景蔵さん、蕎麦《そば》でもやりながら話そうじゃありませんか。」と半蔵は友人と
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