は西の方面からやって来るものでも、昼食の時を寝覚に送ろうとして道を急ぐことは、木曾路を踏んで見るもののひとしく経験するところである。そこに名物の蕎麦《そば》がある。
春とは言いながら石を載せた坂屋根に残った雪、街道のそばにつないである駄馬《だば》、壁をもれる煙――寝覚の蕎麦屋あたりもまだ冬ごもりの状態から完全に抜けきらないように見えていた。半蔵らは福島の立ち方がおそかったから、そこへ着いて足を休めようと思うころには、そろそろ食事を終わって出発するような伊勢参宮の講中もある。黒の半合羽《はんがっぱ》を着たまま奥の方に腰掛け、膳《ぜん》を前にして、供の男を相手にしきりに箸《はし》を動かしている客もある。その人が中津川の景蔵だった。
偶然にも、半蔵はそんな帰村の途中に、しかも寝覚《ねざめ》の床《とこ》の入り口にある蕎麦屋の奥で、反対の方角からやって来た友人と一緒になることができた。景蔵は、これから木曾福島をさして出掛けるところだという。聞いて見ると、地方《じかた》御役所からの差紙《さしがみ》で。中津川本陣としてのこの友人も、やはり半蔵と同じような呼び出され方で。
「半蔵さん、これはなんと
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