翌朝になると、やがて役所へ出頭する時が来た。半蔵は供の平兵衛を門内に待たせて置いて、しばらく待合所に控えていた後、さらに別室の方へ呼び込まれた。上段に居並ぶ年寄、用人などの前で、きびしいおしかりを受けた。その意味は、官軍|先鋒《せんぽう》の嚮導隊《きょうどうたい》などととなえ当国へ罷《まか》り越した相良惣三《さがらそうぞう》らのために周旋し、あまつさえその一味のもの伊達《だて》徹之助に金子二十両を用だてたのは不埓《ふらち》である。本来なら、もっと重い御詮議《ごせんぎ》もあるべきところだが、特に手錠を免じ、きっと叱《しか》り置く。これは半蔵父子とも多年御奉公申し上げ、頼母子講《たのもしこう》お世話方も行き届き、その尽力の功績も没すべきものでないから、特別の憐憫《れんびん》を加えられたのであるとの申し渡しだ。
「はッ。」
半蔵はそこに平伏した。武家の奉公もこれまでと思う彼は、甘んじてそのおしかりを受けた。そして、屋敷から引き取った。
「青山さん。」
うしろから追いかけて来て、半蔵に声をかけるものがある。ちょうど半蔵は供の平兵衛と連れだって、木曾福島を辞し、帰村の道につこうとしたば
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