ったこと、ただ彼としては惣三の同志|伊達徹之助《だててつのすけ》の求めにより金二十両を用立てたことをありのままに申し立てた。
「偽役《にせやく》のかたとはさらに存ぜず、献金なぞいたしましたことは恐れ入ります。」
そう半蔵は答えた。
「待て、」と取り調べ役が言った。「その方もよく承れ。近ごろはいろいろな異説を立てるものがあらわれて来て、実に心外な御時世ではある。なんでも悪い事は皆徳川の方へ持って行く。そういう時になって来た。まあ、あの相良惣三《さがらそうぞう》一味のものが江戸の方でしたことを考えて見るがいい。天道にも目はあるぞ。おまけに、この街道筋まで来て、追分辺で働いた狼藉《ろうぜき》はどうだ。官軍をとなえさえすれば、何をしてもいいというものではあるまい。」
「さようだ。」と言い出すのは火鉢《ひばち》に手をかざしている立ち会いの用人だ。「貴殿はよく言った。実は、拙者もそれを言おうと思っていたところでござる。」
「いや、」とまた取り調べ役は言葉をつづけた。「御同役の前でござるが、あの御征討の制札にしてからが、自分には腑《ふ》に落ちない。今になって、拙者はつくづくそう思う。もし先帝が御在
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