、その処置を伺うがいいと言ってある。万一、手向かいするなら、討《う》ち取ってもくるしくないとまで言ってある。
 こういう回状は、写し伝えられるたびに、いくらかゆがめられた形のものとなることを免れない。しかし大体に、東山道軍の本営でこの自称先駆の一行を認めないことは明らかになった。
「偽《にせ》官軍だ。偽官軍だ。」
 さてこそ、その声は追分からそう遠くない小諸藩《こもろはん》の方に起こった。その影響は意外なところへ及んで、多少なりとも彼らのために便宜を計ったものは、すべて偽官軍の徒党と言われるほどのばからしい流言の渦中《かちゅう》に巻き込まれた。追分の宿はもとより、軽井沢《かるいざわ》、沓掛《くつかけ》から岩村田へかけて、軍用金を献じた地方の有志は皆、付近の藩からのきびしい詰問を受けるようになった。そればかりではない、惣三らの通り過ぎた木曾路から美濃地方にまでその意外な影響が及んで行った。馬籠本陣の半蔵が木曾福島へ呼び出されたのも、その際である。


 そこは木曾福島の地方《じかた》御役所だ。名高い関所のある街道筋から言えば、深い谷を流れる木曾川の上流に臨み、憂鬱《ゆううつ》なくらいに密
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