く大きかったという。彼女はさだめし背の高い人で、年の頃三十五、六であろうと思われたという。簾は葦《よし》で織られた掛け物で、その背面には美しい透明の絹布を掛けたものである。その一方は装飾のため、一方にはまた後方の人物をかくすために、簾には彩色でいろいろなものが描いてある。将軍自らは薄暗いところにその位置を占めたから、思わずもらす低い声がなかったら、ケンペルなぞはそこに人があるとは知らなかったろうという。ちょうど彼らの前面に当たって他の簾の後ろには位の高い人たちや諸貴女が集まっていた。葦《よし》の簾の間にはところどころに紙の片《きれ》を結びつけて隙間を大きくしたのがケンペルの目についた。彼はひそかにその紙の片を勘定して見たところ、三十ばかりあったから、簾の後ろには同数の人物がいたろうとも想像したという。
オランダ人らの演戯は約二時間も続いた。彼らは将軍はじめ満廷の慰みのために種々《さまざま》な芸を演じたが、さすがに使節ばかりはその仲間には加わらなかった。フウテンハイムは犯しがたい威風をそなえた重々しい容貌《ようぼう》の人だった。日本人の目にもこの一国の代表者にまでそんな滑稽《こっけい》
前へ
次へ
全419ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング