八挺の鉄砲と二頭の騎馬とで、その身を護《まも》ることを考えねばならなくなったのだ。
毎月上半期を半蔵の家の方で、下半期を九太夫《くだゆう》方で交替に開く問屋場《といやば》は、ちょうどこちらの順番に当たっていた。吉左衛門の足はその方へ向いた。そこには書役《かきやく》という形で新たにはいった亀屋栄吉《かめやえいきち》が早く出勤していて、小使いの男と二人《ふたり》でそこいらを片づけている。栄吉は吉左衛門が実家を相続しているもので、吉左衛門の甥《おい》にあたり、半蔵とは従兄弟《いとこ》同志の間柄にあたる。問屋としての半蔵の仕事を手伝わせるために、わざわざ吉左衛門が見立てたのもこの栄吉だ。
「叔父《おじ》さん、早いじゃありませんか。」
「あゝ。もう半蔵も帰りそうなものだと思って、ちょっとそこいらを見回りに来たよ。だいぶ荷もたまってるようだね。」
「それですか。それは福島行きの荷です。けさはまだ峠の牛が降りて来ません。」
栄吉は問屋場の御改《おあらた》め所《じょ》になっている小さい高台のところへ来て、その上に手を置き、吉左衛門はまたその前の羽目板《はめいた》に身を寄せ、蹴込《けこ》みのところに
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