に動かなかった。江戸行きの家中が荷物という荷物は付き添いの人たち共にこの宿場に逗留していた時だ。ようやくその中の三分の一だけ継立てができたと知って、半蔵も息をついていた時だ。
「勝重《かつしげ》さんは復習でもしていますか。これじゃ本も読めないね。しばらくわたしも見てあげられなかった。こんな日も君、そう長くは続きますまい。」
「いえ、そこどこじゃありません。なんにもわたしはお手伝いができずにいるんです。そう言えば、お師匠さま――わたしは今、問屋場の前でおもしろいものを見て来ましたよ。いくら荷物を出せと言われても、出せない荷物は出せません、そう言って栄吉さんが旅の御衆に断わったと思ってごらんなさい。その人が袖《そで》を出して、しきりに何か催促するじゃありませんか。栄吉さんもしかたなしに、天保銭《てんぽうせん》を一枚その袂《たもと》の中に入れてやりましたよ。」
 勝重はおとなの醜い世界をのぞいて見たというふうに、自分の方ですこし顔をあからめて、それからさらに言葉をついで見せた。
「どうでしょう、その人は栄吉さんだけじゃ済ましませんよ。九郎兵衛さんのところへも押し掛けて行きました。あそこでもし
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