幕政に抵抗したり国事に奔走したりするというこの難《かた》い時代に、こういう和尚のような人も生きていたかということは、なおなお彼を驚かした。
「お民。」
半蔵は妻を揺り起こした。彼は自分でもはね起きて、中津川にある友人香蔵のもとまで京都の様子を探りに行こうと思い立った。
「こんな山の中にいたんじゃ、さっぱり様子がわからん。王政復古の日はもう来ているんじゃないか。」
その考えから、彼はお民に言い付けて下女を起こさせ、囲炉裏《いろり》の火をたかせ、中津川の方へ出かける前の朝飯のしたくをさせた。
慶応三年十二月のことで、街道は雪で白くおおわれていた。朝飯を済ますと間もなく半蔵は庄屋《しょうや》らしい袴《はかま》に草鞋《わらじ》ばきで、荒町にある村社までさくさく音のする雪の道を踏んで行った。氏神への参拝を済まして鳥居《とりい》の外へ出るころ、冬にしては温暖《あたたか》な日の光も街道にあたって来た。彼はその道を国境《くにざかい》へと取って、さらに宿はずれの新茶屋まで歩いた。例の路傍《みちばた》にある芭蕉《ばしょう》の句塚《くづか》も雪にぬれている。見知り越しな亭主《ていしゅ》のいる休み茶屋も
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