市中を踊り回るという賑々《にぎにぎ》しさで持ち切った。
 不思議なお札と、熱狂する「ええじゃないか」と。まるで町内は時ならぬ祭礼の光景を出現するようになった。こんな意外なものが、つい三、四月あたりまで食うや食わずの凶年に騒いでいた馬籠あたりの村民を待ち受けていようとは。それは一切の過去の哀傷を葬り去ろうとするような大きな騒動にまで各地に広がった。そして、多くの人の心を酔うばかりにさせた。
 熱田《あつた》太神宮のお札は蓬莱屋《ほうらいや》の庭の椿《つばき》の枝へも降り、伏見屋の表格子《おもてごうし》の内へも降り、梅屋の裏座敷の庭先にある高塀《たかべい》の上へも降った。まだそのほかに、八幡宮のお札の降ったところが二か所もある。いずれも奇異の思いに打たれて、ありがたく頂戴《ちょうだい》したという。こうなると、人一倍精力のあるとともにまた迷信も深い上の伏見屋の隠居はじっとしていない。どんな金満家でもこんな祝いの時の酒や投げ餅を出し惜しむものは流行節《はやりぶし》に合わせて「貧乏せ、貧乏せ」と囃《はや》し立てられると聞いては、なおなお黙って引っ込んでいない。桝田屋で四斗の餅を投げたものなら、こ
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