村の年寄りや女子供までを浮き浮きとさせた。そこへお札だ。荒町《あらまち》にある氏神《うじがみ》の境内へ下った諏訪《すわ》本社のお札を降り始めとして、問屋の裏小屋の屋根へも伊勢《いせ》太神宮のお札がお下《さが》りになったとか、桝田屋《ますだや》の坪庭へも同様であると言われると、それ祝えということになって、村の若い衆なぞの中には襦袢《じゅばん》一枚で踊り狂いながら祝いに行くという騒ぎだ。お札の降った家では幸福があるとして、餅《もち》をつくやら、四斗樽《しとだる》をあけるやら、それを一同に振る舞って非常な縁起《えんぎ》を祝った。
だれもがまた、こんな不思議を疑い、かつ信じた。実際、明るい青空からお札がちらちら降って来たのを目撃したと言うものがあり、何かこれは伊勢太神宮のお告げだと言うものがあり、豊年の瑞兆《ずいちょう》だと言って見るものもある。このにぎやかな「えいじゃないか」の騒動は木曾地方にのみ限らなかった。京大坂の方面から街道を下って来る旅人の話も戸《こ》ごとに神棚《かみだな》をこしらえ、拾ったお札を祭り、中には笛太鼓の鳴り物入りで老幼男女の差別なく花やかな衣裳《いしょう》を着けながら
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