人は下《しも》なる人に奪はれまじと構へ、下なるは上のひまを窺《うかが》ひて奪はむと謀《はか》りて、かたみに仇《あだ》みつゝ、古《いにしえ》より国治まりがたくなも有りける。そが中に、威力《いきおい》あり智《さと》り深くて、人をなつけ、人の国を奪ひ取りて、又人に奪はるまじき事量《ことはかり》をよくして、しばし国をよく治めて、後の法《のり》ともなしたる人を唐土《もろこし》には聖人とぞ言ふなる。そも/\人の国を奪ひ取らむと謀るには、よろづに心を砕き、身を苦しめつゝ、善《よ》きことの限りをして、諸人《もろびと》をなつけたる故に、聖人はまことに善き人めきて聞《きこ》え、又そのつくり置きたる道のさまもうるはしくよろずに足《た》らひて、めでたくは見ゆれども、まづ己《おのれ》からその道に背《そむ》きて、君をほろぼし、国を奪へるものにしあれば、みな虚偽《いつわり》にて、まことはよき人にあらず、いとも/\悪《あ》しき人なりけり。もとよりしか穢悪《きたな》き心もて作りて、人を欺く道なるけにや、後の人の表《うわ》べこそ尊み従ひがほにもてなすめれど、まことには一人も守りつとむる人なければ、国の助けとなることもなく
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