に寝泊まりして行った部屋である。この半蔵の話が、外交条約のことに縁故の深い駿河の心をひいた。
「御主人はまだお聞きにもなりますまいが、いよいよ条約も朝廷からお許しが出ましたよ。長い間の条約の大争いも一段落を告げる時が来ました。井伊大老や岩瀬肥後なぞの骨折りも、決してむだにはならなかった。そう思って、わたしたちは自分を慰めますよ。やかましい攘夷《じょうい》の問題も今に全くなくなりましょう。この国を開く日の来るのも、もうそんなに遠いことでもありますまい。」
駿河はそれを半蔵に言って見せて、両手を後方に組み合わせながら、あちこちとその部屋の内を静かに歩き回った。あだかもそこの壁や柱にむかって話しかけでもするかのように……
大目付で外国奉行を兼ねた人の口からもれて来たことは、何がなしに半蔵の胸に迫った。彼はまだ将軍辞職の真相も知らず、それを説き勧めた人が自分の目の前にいるとも知らず、ましてその人が閉門謹慎の日を送るために江戸へ行く途中にあるとは夢にも知らなかった。ただ、衰えた徳川の末の代に、どうかしてそれをささえられるだけささえようとしているような、こんな頼もしい人物も幕府方にあるかと想《
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