までも、たましいを落ち着けるによいような奥まった静かさはその部屋の内にも外にもある。
「だいぶごゆっくりでございますな。今日は御逗留《ごとうりゅう》のおつもりでいらっしゃいますか。」
「そう願いましょう。きょうは一日休ませてもらいましょう。江戸へと思って急いでは来ましたが、ここまで来て見たら、ひどく疲れが出ましたよ。このお天気じゃ出かける気にもなれません。しかし、木曾へはいって雨に降りこめられるのも悪くありませんね。」
「ことしは雨の多い年でして、閏《うるう》の五月あたりから毎日よく降りました。当年のように強雨《ごうう》の来たことは古老も覚えがない、そんなことを申しまして、一時はかなり心配したくらいでした。川留め、川留めで、旅のかたが御逗留になることは、この地方ではめずらしいことでもございません。」
 午後にも半蔵はこの客人を見に来た。雨の日の薄暗い光線は、その白地に黒く雲形を織り出した高麗縁《こうらいべり》の畳の上にさして来ている。そこは彦根《ひこね》の城主|井伊掃部頭《いいかもんのかみ》も近江から江戸への往《ゆ》き還《かえ》りに必ずからだを休め、監察の岩瀬肥後も神奈川条約上奏のため
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