この国の事情を述べ、この勅書は元来天皇から将軍に授けられたので君らへそのまま示すべき性質のものでないが、それをありのまま示すのは懇信の意を表するからであると言って、印璽《いんじ》のない場合に旧例のあることをも説明した。もはや日暮れにも近い、仏国公使も待っていることだろうから、同公使の意見をも聞いた上で、また貴艦を訪《たず》ねようと言い添えると、パアクスもやや気色を和らげた。そこで一行は英国公使らにわかれて、フランス船の方へ行った。
仏国公使ロセスと駿河とはすでに江戸の方で幾たびか相往来している間柄である。横須賀《よこすか》造船所の経営に、陸軍の伝習に、フランス語学所の開設に、海外留学生の派遣に、ロセスが幕府に忠告したり種々《さまざま》な助力を与えたりしたことは一度や二度にとどまらない。それに、書記官のメルメット・カションが以前|函館《はこだて》の方にあったころ、函館奉行|津田近江《つだおうみ》の世話により駿河の友人喜多村|瑞見《ずいけん》から邦語を伝えられたという縁故もあって、駿河の方でも応対に心やすい。この公使と書記官とが駿河らから英国側の態度をきき取った時は、さすがに少しも驚かな
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