かった。ただフランス人の癖らしく両手をひろげて、肩をゆすって見せたばかりだ。
のみならず、ロセスはせっかく勅書まで持参した幕府側の苦心を知るだけの思いやりもあって、この際どうすればいいかという方法まで松平老中に教えた。それには、老中連名の書面をすみやかに渡してもらいたい。その文意はカションの通訳で大体駿河からきいたように、国事多端の際であるからこの地では事を尽くせない、兵庫開港の事も将軍においては承諾している、これらはことごとく江戸にある水野|和泉守《いずみのかみ》に任すべきゆえ、すみやかに江戸において談判せられよ、京都の皇帝へは外国事情をよく告げ置くであろうとの趣に認《したた》めてもらいたい。自分はその書面を証拠として、今夜各国公使へ説諭し、明日はすみやかに退帆するように取り計らうことにする。そうすれば目下の急を救うこともできよう。これが仏国公使の意見であった。
「さて、これはどうしたものであろう。拙者|一人《ひとり》ならすぐにもこの書面は認《したた》められる。同僚連署ということであれば、一応その人たちに相談した上でないと渡されない。はて、困ったことになったわい。」
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