また》に歩き回るやらしたあとで、口から沫《あわ》を飛ばして言うことには、条約許容とは何事であるか、大英国と日本とは前年すでに結んだのを知らないのか、兵庫開港をやめるとは条約にそむく、勅書と言って貴重にされるからは徳川将軍よりもさらに権の重い者である、しからば直ちにその権の重い者について談判するであろう、もはや貴下らと談判する必要がない、すみやかに日本の国権を有するところへ案内せられよ、かつまた真に日本皇帝の書であるならその印璽《いんじ》が押してなければならない、それさえない一片の紙をどうして外国のものが信ずることができるか、君らは自分を瞞着《まんちゃく》するために来たのであろう、自分はこれから艦長に言い付けてすぐさま京都に行くであろう、貴下らはよろしく同行するがよいと。
何を言われても泰然と構え込んで苦笑《にがわら》いしている松平伯耆と、パアクスとがそれに対《むか》い合っていた。それにこの二人《ふたり》は言葉も通じない。鼻息の荒いパアクスはもはや幕府の外交手段に欺かれないという顔つきで、今にもその勅書を引き裂きそうにするので、駿河はあわてて公使を押し止め、にわかに兵庫の港を開きがたい
前へ
次へ
全434ページ中313ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング