た》いてここに来る準備をしているところだと告げた。順動丸が兵庫に近づくと、そこにはまた仏国書記官メルメット・カションが日本執政の来港を待ちわびていた。
 談判はまず英船内で開始された。初対面のこととて、駿河が姓名職掌を紹介すると、英国公使パアクスは不審を打って松平老中に言った。
「本日は約束の期日であるのに、阿部豊後《あべぶんご》はどうして見えないのか。」
「阿部豊後でござるか。先日職を罷《や》められたによって。」
「小笠原壱岐はどうしたか。」
「これは病気でござるで。」
「松平|周防《すおう》は。」
「はて、松平周防は機務に多忙で、なかなかこの席へはお越しになれない。」
 それを聞くと、公使は冷笑して、結局の談判に旧識の人たちは皆来ない、初対面の貴下が来臨あるとははなはだその意を得ないと言い出す。松平伯耆はそんなことに頓着《とんちゃく》なしで、右手に勅書をささげて、公使の前でそれを読み上げた。その時、書記官シイボルトがそばにいて、勅書の字句を駿河に質問し、それを一々公使に通じた。パアクスはたちまち顔色を火のように変え、拳《こぶし》を揚げて卓をたたくやら、椅子《いす》を離れて大股《おお
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