に乗り移った。兵庫行きを急ぐ彼は船長を催促して、さかんに石炭を焚《た》かせた。その時、川口の方面から船印《ふなじるし》の旗を立てて進んで来る一|艘《そう》の川船が彼の目に映った。彼はその船の赤い色で長官を乗せて来たことを知った。近づいて見ると、彼が心待ちにした小笠原壱岐ではなくて、松平伯耆であった。この人は温厚淡泊な君子ではあるが、外国応接の事件を担当すべき人柄でない。これは、と思っている彼の方へその赤い川船はこぎ寄せて来た。間もなく松平伯耆は順動丸に乗り移った。その時の老中の言葉に、京都からの急命で各国公使へ勅諚の趣を達しにやって来た、万事はよろしく君らの方で談判ありたいとのきわめてあっさりとした挨拶《あいさつ》だ。なんら苦慮の様子もないには、駿河も左京と顔を見合わせた。
そこへ大きな外国船だ。やがて一人《ひとり》の西洋人を乗せたボオトが親船からこぎ離れて、波に揺られながらこちらを望んで近づいて来た。英国書記官アレキサンドル・シイボルトが兵庫からの使者として催促にやって来たのだ。シイボルトは約束の期日の来たことを告げ、日本執政の来るのを待ちあぐんだことを告げ、各国の船艦は蒸汽を焚《
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