ら馬籠峠を経て、伊那|諏訪《すわ》へと進んだ遠い昔の人の足跡をそこに想像することはできる。そこにはまた、幾世紀の長さにわたるかと思われるような沈黙と寂寥《せきりょう》との支配する原生林の大きな沢を行く先に見つけることもできる。蘭《あららぎ》はこの谷に添い、山に倚《よ》っている村だ。全村が生活の主《おも》な資本《もとで》を山林に仰いで、木曾名物の手工業に親代々からの熟練を見せているのもそこだ。そこで造らるる檜木笠《ひのきがさ》の匂《にお》いと、石垣《いしがき》の間を伝って来る温暖《あたたか》な冬の清水《しみず》と、雪の中にも遠く聞こえる犬や鶏の声と。しばらく半蔵らはその山家の中の山家とも言うべきところに足を休めた。
 そこまで行くと、水戸浪士の進んで来た清内路《せいないじ》も近い。清内路の関所と言えば、飯田藩から番士を出張させてある山間《やまあい》の関門である。千余人からの浪士らの同勢が押し寄せて来た当時、飯田藩で間道通過を黙許したものなら、清内路の関所を預かるものがそれをするにさしつかえがあるまいとは、番士でないものが考えても一応言い訳の立つ事柄である。飯田藩の家老と運命を共にしたとい
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