方にあった家を挙《あ》げて京都に移り住みたい意向であるという師平田|鉄胤《かねたね》のうわさ、枕の上で語り合うこともなかなか尽きない。半蔵は江戸の旅を、景蔵らは京都の方の話まで持ち出して、寝物語に時のたつのも忘れているうちに、やがて一番|鶏《どり》が鳴いた。
二
「あなた、佐吉が飯田《いいだ》までお供をすると言っていますよ。」
お民はそれを言って、あがりはなのところに腰を曲《こご》めながら新しい草鞋《わらじ》をつけている半蔵のそばへ来た。景蔵、香蔵の二人もしたくして伊那行きの朝を迎えていた。
「飯田行きの馬は通《かよ》っているんだろう。」と半蔵は草鞋の紐《ひも》を結びながら言う。
「けさはもう荷をつけて通りましたよ。」
「馬さえ通《かよ》っていれば大丈夫さ。」
「なにしろ、道が悪くて御苦労さまです。」
そういうお民から半蔵は笠《かさ》を受け取った。下男の佐吉は主人らの荷物のほかに、その朝の囲炉裏で焼いた芋焼餅《いもやきもち》を背中に背負《しょ》った。一同したくができた。そこで出かけた。
降った雪の溶けずに凍る馬籠峠の上。雪を踏み堅め踏み堅めしてある街道には、猿羽
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