の残して置いて行った刺激は彼の心を静かにさせて置かなかったからである。浪士らの通過以来、伊那にある平田門人らはしきりに往来し始めたと聞くころだ。半蔵もまた二人の年上の友だちと共に、たとい大平峠の雪を踏んでも、伊那の谷の方にある同門の人たちを見に行かずにはいられなかった。
馬籠本陣の店座敷では、翌朝の出発を楽しみにする三人が久しぶりの炬燵話《こたつばなし》に集まった。そこへ半蔵の父吉左衛門も茶色な袖無《そでな》し羽織などを重ねながらちょっと挨拶《あいさつ》に来て、水戸浪士のうわさを始める。
「中津川の方はいかがでしたか。」
「そりゃ、香蔵さん、馬籠は君たちの方と違って、隣に妻籠《つまご》というものを控えていましょう。福島から出張した人たちは大平口を堅める。えらい騒ぎでしたさ。」と半蔵が言う。
「いや、はや、あの時は福島の家中衆も大あわて。」とまた吉左衛門が言って見せた。「あとになって軍用の荷物をあけて見たら、あなた、桜沢口の方へは鉄砲の玉ばかり行って、大平口の方へはまた焔硝《えんしょう》(火薬)ばかり来ておりましたなんて。まあ、無事に浪士を落としてやってよかったと思うものは、わたしたち
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