という。
「あの蝿帽子峠の手前に、クラヤミ峠というのがございます。」と儀十郎は言って見せた。「ひどい峠で、三里の間は闇《やみ》を行くようだと申しますんで、それで俗にクラヤミでございますさ。あの辺は深い雪と聞きますから、浪士も難渋いたしましたろうよ。」
「千辛万苦の旅ですね。」
 と勝重も言っていた。
 間もなく景蔵らはこの稲葉屋を辞して、落合の宿をも離れた。中山薬師から十曲峠にかかって、新茶屋に出ると、そこはもう隣の国だ。雪まじりに土のあらわれた街道は次第に白く変わっていた。鋭い角度を見せた路傍の大石も雪にぬれていて、まず木曾路の入り口の感じを二人に与える。
 師走の五日には中津川や落合へも初雪が来た。その晩に大雪だったという馬籠峠の上では、宿場そのものがすでに冬ごもりだ。南側の雪は溶けても、北側は溶けずに、石を載せた板屋根までが山家らしいところで、中津川から行った二人の友だちはそこに待ちわび顔な半蔵とも、その家族の人たちとも一緒になった。

 この伊那《いな》行きはひどく半蔵をもよろこばせた。水戸浪士の通過を最後にして、その年の街道の仕事もどうやら一段落を告げたばかりではない。浪士ら
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