めにのみ、やむを得ず諏訪藩を敵として悪戦したまでだ。その夜の評定に上ったは、前途にどこをたどるべきかだ。道は二つある。これから塩尻峠《しおじりとうげ》へかかり、桔梗《ききょう》が原《はら》を過ぎ、洗馬《せば》本山《もとやま》から贄川《にえがわ》へと取って、木曾《きそ》街道をまっすぐに進むか。それとも岡谷《おかや》辰野《たつの》から伊那《いな》道へと折れるか。木曾福島の関所を破ることは浪士らの本意ではなかった。二十二里余にわたる木曾の森林の間は、嶮岨《けんそ》な山坂が多く、人馬の継立《つぎた》ても容易でないと見なされた。彼らはむしろ谷も広く間道も多い伊那の方をえらんで、一筋の血路をそちらの方に求めようと企てたのである。
 不眠不休ともいうべき下諏訪での一夜。ようやく後陣のものが町に到着して一息ついたと思うころには、本陣ではすでに夜立ちの行動を開始した。だれ一人、この楽しい湯の香のする町に長く踏みとどまろうとするものもない。一刻も早くこれを引き揚げようとして多くの中にはろくろく湯水を飲まないものさえある。
「夜盗を警戒せよ。」
 その声は、幹部のものの間からも、心ある兵士らの間からも起こっ
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