代を誇るべき意匠とてもない。半蔵はよく町々の絵草紙問屋《えぞうしどんや》の前に立って見るが、そこで売る人情本や、敵打《かたきう》ちの物語や、怪談物なぞを見ると、以前にも増して書物としての形も小さく、紙質も悪《あ》しく、版画も粗末に、一切が実に手薄《てうす》になっている。相変わらずさかんなのは江戸の芝居でも、怪奇なものはますます怪奇に、繊細なものはますます繊細だ。とがった神経質と世紀末の機知とが淫靡《いんび》で頽廃《たいはい》した色彩に混じ合っている。
この江戸出府のはじめのころには、半蔵はよくそう思った。江戸の見物はこんな流行を舞台の上に見せつけられて、やり切れないような心持ちにはならないものかと。あるいは藍微塵《あいみじん》の袷《あわせ》、格子《こうし》の単衣《ひとえ》、豆絞りの手ぬぐいというこしらえで、贔屓《ひいき》役者が美しいならずものに扮《ふん》しながら舞台に登る時は、いよすごいぞすごいぞと囃《はや》し立てるような見物ばかりがそこにあるのだろうかと。四月も江戸に滞在して、いろいろな人にも交際して見るうちに、彼はこの想像がごく表《うわ》ッ面《つら》なものでしかなかったことを知る
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