ようになった。
 よく見れば、この頽廃《たいはい》と、精神の無秩序との中にも、ただただその日その日の刺激を求めて明日《あす》のことも考えずに生きているような人たちばかりが決して江戸の人ではなかった。相生町のかみさんのように、婦人としての教養もろくろく受ける機会のなかった名もない町人の妻ですら、世の移り変わりを舞台の上にながめ、ふとした場面から時の感じを誘われると、人の泣かないようなことに泣けてしかたがないとさえ言っている。うっかり連中の仲間入りをして芝居見物には出かけられないと言っている。
 当時の武士でないものは人間でないような封建社会に、従順ではあるが決して屈してはいない町人をそう遠いところに求めるまでもなく、高い権威ぐらいに畏《おそ》れないものは半蔵のすぐそばにもいた。背は高く、色は白く、目の光も強く生まれついたかわりに、白粉《おしろい》一つつけたこともなくて、せっせと台所に働いているような相生町の家のかみさんには、こんな話もある。彼女の夫がまだ大きな商家の若主人として川越《かわごえ》の方に暮らしていたころのことだ。当時、お国替《くにが》えの藩主を迎えた川越藩では、きびしいお触れ
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