だろうか。そう思って半蔵がこの宿のかみさんを見ると、お隅は正直ということをその娘に教え、それさえあればこの世にこわいもののないことを言って聞かせ、こうと彼女が思ったことに決して間違った例《ためし》のないのもそれは正直なおかげだと言って、その女の一心にまだ幼いお三輪を導こうとしている。
「青山さん、あなたの前ですが、青表紙《あおびょうし》の二枚や三枚読んで見たところで、何の役にも立ちますまいねえ。」
「どうもおかみさんのような人にあっちゃ、かないませんよ。」
 この家へは、亭主が俳友らしい人たちも訪《たず》ねて来れば、近くに住む相撲《すもう》取りも訪ねて来る。かみさんを力にして、酒の席を取り持つ客商売から時々息抜きにやって来るような芸妓《げいぎ》もある。かみさんとは全く正反対な性格で、男から男へと心を移すような女でありながら、しかもかみさんとは一番仲がよくて、気持ちのいいほど江戸の水に洗われたような三味線《しゃみせん》の師匠もよく訪ねて来る。
 お隅は言った。
「不景気、不景気でも、芝居《しばい》ばかりは大入りですね。春の狂言なぞはどこもいっぱい。どれ――青山さんに、猿若町《さるわかちょ
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