。
ある朝、暁《あけ》の七つ時とも思われるころ。半蔵は本所相生町《ほんじょあいおいちょう》の家の二階に目をさまして、半鐘の音を枕《まくら》の上で聞いた。火事かと思って、彼は起き出した。まず二階の雨戸を繰って見ると、別に煙らしいものも目に映らない。そのうちに寝衣《ねまき》のままで下から梯子段《はしごだん》をのぼって来たのはその家の亭主《ていしゅ》多吉だ。
「火事はどこでございましょう。」
という亭主と一緒に、半蔵はその二階から物干し場に登った。家々の屋根がそこから見渡される。付近に火の見のある家は、高い屋根の上に登って、町の空に火の手の揚がる方角を見さだめようとするものもある。
「青山さん、表が騒がしゅうございますよ。」
と下から呼ぶ多吉がかみさんの声もする。半蔵と亭主はそれを聞きつけて、二階から降りて見た。
多くの人は両国橋の方角をさして走った。半蔵らが橋の畔《たもと》まで急いで行って見た時は、本所方面からの鳶《とび》の者の群れが刺子《さしこ》の半天に猫頭巾《ねこずきん》で、手に手に鳶口《とびぐち》を携えながら甲高《かんだか》い叫び声を揚げて繰り出して来ていた。組の纏《まとい》
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