入れて、「田舎から出て来て見ると、女の風俗の変ったのに驚いて了う。実に、華麗《はで》な、大胆な風俗だ。見給え、通る人は各自《てんで》に思い思いの風《なり》をしている」
「とにかく、進んで来たんだね。着物の色からして、昔は割合に単純なもので満足した。今は子供の着るものですら、黄とか紅《あか》とか言わないで、多く間色を用いるように成った。それだけ進歩して来たんだろうね」
「しかし、相川君、内部《なかみ》も同じように進んでいるんだろうか」
「無論さ」
「そうかなあ――」
「原君、原君、まだまだ吾儕《われわれ》の時代だと思ってるうちに、何時《いつ》の間にか新しい時代が来ているんだね」
長いこと二人は言葉を交《かわ》さないで、悄然《しょうぜん》と眺め入っていた。
やがて別れる時が来た。暫時《しばらく》二人は門外の石橋のところに佇立《たたず》みながら、混雑した往来の光景《ありさま》を眺めた。旧い都が倒れかかって、未だそこここに徳川時代からの遺物も散在しているところは――丁度、熾《さか》んに燃えている火と、煙と、人とに満された火事場の雑踏を思い起させる。新東京――これから建設されようとする大都会
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