――それはおのずからこの打破と、崩壊と、驚くべき変遷との間に展けて行くように見えた。
「ああ出て来てよかった」
と原は心に繰返したのである。再会を約して彼は築地《つきじ》行の電車に乗った。
友達に別れると、遽然《にわかに》相川は気の衰頽《おとろえ》を感じた。和田倉橋から一つ橋の方へ、内濠《うちぼり》に添うて平坦《たいら》な道路《みち》を帰って行った。年をとったという友達のことを笑った彼は、反対《あべこべ》にその友達の為に、深く、深く、自分の抱負を傷《きずつ》けられるような気もした。実際、相川の計画していることは沢山ある。学校を新《あらた》に興そうとも思っている。新聞をやって見ようとも思っている。出版事業のことも考えている。すくなくも社会の為に尽そうという熱い烈しい希望《のぞみ》を抱《いだ》いている。しかしながら、彼は一つも手を着けていなかった。
翌々日、相川は例の会社から家の方へ帰ろうとして、復たこの濠端《ほりばた》を通った。日頃「腰弁街道」と名を付けたところへ出ると、方々の官省《やくしょ》もひける頃で、風呂敷包を小脇に擁《かか》えた連中がぞろぞろ通る。何等の遠い慮《おもんぱかり
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