布施は引取って、「洋服を着たら若くなったという評判です」
「どうも到る処でひやかされるなあ」と青木は五分刈の頭を撫でた。
「時に、会の方はどう定《きま》りました」と相川は尋ねた。
「乙骨先生の講演、これは動きません。それから高瀬さんも出て下さると仰在《おっしゃ》いました」こう布施は答える。
「高瀬は、君、あんまり澄してるからね、ちっと引張《ひっぱり》出さんけりゃ不可《いかん》よ」と言って、相川は原の方を見て、「君も引越して来たら、是非|吾儕《われわれ》の会の為に尽力してくれ給え」
「何卒《どうぞ》、原先生にも御話を一つ」と布施は敬意を表《あらわ》して言った。
「駄目です」と原は謙遜な調子で、「今相川君にも話したんですが、僕なぞは最早《もう》チョン髷の方で――」
「そんなことは有ません」と布施は言葉を和《やわら》げて、さも可懐《なつか》しそうに、「実際、私は原先生のものを愛読しましたよ。永田先生にも克《よ》くその話をしましたッけ」
「まあ、私達は先生方が産んで下すった子供なんです」と青木は附加《つけた》した。
 眼鏡越しに是方《こちら》を眺める青木の眼付の若々しさ、往時《むかし》を可懐《
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