、今度はどうかいう計画があって引越して来るかね」
「計画とは?」と原は※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]子《ハンケチ》で長い口髭を拭いた。
「だって君、そうじゃないか、やがてお互いに四十という声を聞くじゃないか」
「だから僕も田舎を辞《や》めて来たような訳さ。それに、まあ差当りこれという職業《しごと》も無いが、その内にはどうかなるだろうと思って――」
「いや」相川は原の言葉を遮《さえぎ》って、「その何さ――これからの方針さ。もう君、一生の事業に取掛っても可《よ》かろう」
「それには僕はこういうことを考えてる」と原は濃い眉を動《うごか》して、「一つ図書館をやって見たいと思ってる」
「むむ、図書館も面白かろう」と相川は力を入れた。
「既に金沢の方で、学校の図書室を預って、多少その方の経験もあるが、何となく僕の趣味に適するんだね――あの議院に附属した大な図書館でもあると、一つ行《や》って見たいと思うんだが――」
原は口髭を捻《ひね》りながら笑った。
茶店《さてん》の片隅《かたすみ》には四五人の若い給仕女が集って小猫を相手に戯れていた。時々高い笑声が起る。小猫は黒毛の、眼を光らせた奴
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